大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)1015号 判決 1974年2月22日

上告人 三輪正春

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宇山定男の上告理由第一点について。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、三輪クニに過失がなかつたものとはいえないとした原審の判断は正当である。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はなく、所論引用の判例は、本件に適切ではない。論旨は、採用することができない。

同第二点について。

不法行為に基づく一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたつては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえたときは右残額を認容し、残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきであるというのが判例である(最高裁昭和四三年(オ)第九四三号同四八年四月五日第一小法廷判決民集二七巻三号四一九頁参照)から、原審の判断は相当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚喜一郎 岡原昌男 小川信雄 吉田豊)

上告代理人宇山定男の上告理由

第一点 <省略>

第二点 原判決には理由に齟齬がある(民事訴訟法第三五九条第六号)。

原判決の支持する第一審判決は上告人の過失相殺の主張を認め、被害者に六割の過失ありとしながら、被害者の全損につき六割の過失相殺した額を、被上告人の請求額が越えないからとして、その請求の全額を認容している。被上告人の本件債権は被上告人が自賠法第七二条、同法施行令第二条により昭和四二年に於ける支払限度額一五〇万円の範囲内で支払つた一、四九四、五〇〇円についてその額を被害者の相続人に支払うことによりその相続人より承継取得したものである。

被害者の相続人が、その損害額の一部を請求した場合その損害全額について相殺し、請求額が相殺後の損害額を越えないときは、請求全額の支払を認むべきか、どうかにつき学説及び下級審の判例は分れているけども、少くとも本件のように損害賠償請求権が二分され一部が被上告人に移転した場合には、請求額が過失相段後の額を越えないからと云つて、その請求全額を認むべき(これを認めることは過失相殺の抗弁付一部債権移転の否定である)ではなく、その請求額について過失相殺しなければならない。結局原判決は過失相殺しながら、被上告人の請求全額を認めたことは結果に於てこれを認めなかつたことになり、その理由に於て齟齬を来たすものである。

以上

【参考】 第一審判決

主文

一、被告は原告に対し金一、四九四、五〇〇円およびこれに対する昭和四三年九月一九日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

主文同旨

(被告)

請求棄却、訴訟費用原告負担の判決

第二、請求の原因

一、事故

訴外佐藤高光は次の交通事故により死亡した。

(一) 日時 昭和四二年六月二一日午後一時四〇分頃

(二) 場所 雨龍郡雨龍町字満寿二一番地先道路上交差点

(三) 加害車 軽三輪貨物自動車(三札一三二一号)

右運転者 訴外三輪クニ

(四) 被害車 自動二輪車

右運転者 訴外佐藤高光(当時四一才)

(五) 態様

訴外三輪クニ運転の加害車が本件事故現場交差点を右折するにあたり、同車を追い越そうとした訴外佐藤運転の被害車に加害車の右側前部を衝突させたもの

(六) 死亡

訴外佐藤高光(以下亡高光という)は前頭部、頭蓋骨骨折により死亡した。

二、責任原因

被告は本件加害車を燃料販売等の業務用に使用し、自己のため運行の用に供していた。

三、損害の填補と代位

被告が本件加害車につき自動車損害賠償保障法(以下自賠法と略す)第三条による費任保険契約を締結していなかつたため、原告は、亡高光の相続人である訴外佐藤寿美子外二名から、亡高光およびその相続人の損害に関し同法第七二条の自動車損害賠償保障事業による損害填補請求を受けた。そこで損害額を査定した結果、亡高光およびその遺族の損害額を金七、〇八五、七三九円(死体検案料金一、五〇〇円、葬儀費金九四、二〇一円、過失利益金六、九九〇、〇三八円、亡高光の妻および子らの慰藉料合計金二、五〇〇、〇〇〇円)と認め、昭和四三年九月一八日、当時施行させていた自賠法施行令による死亡による損害填補限度額金一、五〇〇、〇〇〇円、死亡に至るまでの傷害による損害金一、五〇〇円合計金一、五〇一、五〇〇円から、亡高光の遺族らが被告より香典として金五、〇〇〇円、国民健康保険より金二、〇〇〇円の支払いを受けていたので、これを差し引き、金一、四九四、五〇〇円を亡高光の相続人らに支払つた。従つて、原告は同法第七六条第一項により右支払金額の限度で被害者が加害者である被告に対して有する損害賠償請求権を代位により取得した。 四、よつて、原告は被告に対し、金一、四九四、五〇〇円およびこれに対する支払つた日の翌日である昭和四三年九月一九日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、請求の原因に対する答弁および主張

一、請求原因一の(一)ないし(四)、(六)の事実は認めるが、(五)の事実は否認する。同二の事実は認める。同三のうち、被告が本件加害車に自賠法第三条による責任保険契約を締結していなかつたこと、訴外佐藤寿美子らが亡高光の相続人であることは認めるが、その余は不知。

二、事故態様についての主張

訴外三輪クニは本件加害車を運転して本件事故現場交差点を右折するにあたり、後方を確認したところ、後方から直進する本件被害車を認めたが、同車との間にかなりの距離があり右折を完了するに充分な状態であつたので、右折の合図をしながら右折を開始し、右折をほぼ完了した際、高速度で進行してきた本件被害車が、本件加害車の前部右側運転席付近に激突し、同車を飛び越えて転倒するに至つたものである。亡高光は、当時、飲酒酩酊し正常な運転のできない状態であり、かつ、制限速度を超えて時速約八〇キロメートル以上の高速度で進行して追越しを禁じられている交差点で追越しをしようとしたものである。

三、免責、過失相殺

このように、本件事故はもつぱら亡高光の過失によつて発生したもので、訴外三輪クニおよび被告に過失はなく、また、本件加害車には構造上の欠陥も機能障害もなかつたので、被告は免責される。

仮にそうでないとしても、本件事故発生には亡高光の重大な過失が関与しているので、大巾な過失相殺がなされるべきである。

第四証拠<省略>

理由

第一、請求原因一の(一)ないし(四)、(六)、二の各事実は当事者間に争いがない。

第二、事故態様、責任

<証拠省略>を綜合すると、本件事故現場は、道路の幅員が約五メートルの東西道路と約三メートルの南北道路の交差する交差点内で、右道路はいずれも非舗装であつたが、訴外三輪は加害車を運転して東西道路を時速約四〇キロメートルで西から東へ進行して同交差点を右折しようとし、同交差点の手前約三〇メートルの付近で右折の方向指示をなしてバツクミラーで後方を確認したところ、かなり遠方に西から東へ走行してくる単車ようの黒い影を認めたが、相当に距離が離れているように感じられたので、時速約二〇キロメートルに減速して、もつぱら同交差点の北側の家陰(進行方向左側)から進入してくる車輌の有無に気を配りながら右折を開始して、東西道路の中央部分を越えて南北道路へ右折進入した時、加害車の右前部に被害車が衝突したこと、一方高光は事故当日古家の解体作業を終え、作業現場で午後零時三〇分頃からビール約一本半分ぐらいを飲み、同日午後一時三〇分頃被害車を運転して作業現場を出発し、かなりの高速度(その速度は本件証拠上必ずしも明らかではないが、法定の制限速度を超えたかなりの高速度であつたことは認められる)で本件事故現場にさしかかり、東西道路の中央部分を超えて加害車を追越そうとしたところ、前方を右折する加害車に激突するに至つたこと、がそれぞれ認められ、右認定に反する<証拠省略>の結果はたやすく措信しがたい。

右事実によれば、訴外三輪クニは本件事故現場交差点を右折するにあたり、後方から直進する単車ようのものを認めていながら、同車の接近より先に右折しおえるものと速断してその後の同車の動静に全く注意を払わず、もつぱら交差点北側からの車輛進入の有無に注意を奪われて右折進行したものと認められるので、同訴外人が無過失であつたものとはとうてい認められない。

被告は免責の主張をするが、右加害車の運行供用者である被告(この点は当事者間に争いがない)は、運転者訴外三輪クニが無過失とは認められない以上、自賠法第三条但書によつて免責されることはないので、本件事故によつて生じた亡高光らの損害を賠償する責任を免れない。

しかしながら、一方亡高光においても、飲酒のうえ、かなりの高速度で、前方をよく注視することなく、事故現場交差点で加害車を追越そうとしたものと認められ、同訴外人に重大な過失のあつたこども明らかである。よつて、前記認定の各事実その他本件に顕れた一切の事情を考慮して、被害者の過失を六割として、過失相殺するのを相当と認める。

第三、損害とその填補

被告が本件加害車に自賠法第三条の責任保険契約を締結していなかつたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、請求原因三記載の事実(右の争いのない点を除く)が認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、亡高光およびその遺族の損害額は、死体検案料金一、五〇〇円<証拠省略>、葬儀費用金九四、二〇一円<証拠省略>、亡高光の逸失利益金八、三一〇、六〇〇円(<証拠省略>により農業所得が少くとも年収金一八八、八五三円、<証拠省略>によりチエンソーを使用する造材人夫としての所得が少くとも年収七七〇、〇〇〇円を下らないので、亡高光の年間所得が金九五〇、〇〇〇円程度と認められるところ、同人が死亡時満四一才であつたから、なお六三才まで二二年間稼働できたものと考えられ、その間、控除すべき生活費を収入の四割とみて、ホフマン複式年別計算により中間利息を控除して得べかりし利益の現価を算定すれば逸失利益は金八、三一〇、六〇〇円と算定される)、慰藉料金二、五〇〇、〇〇〇円(亡高光の慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円、弁論の全趣旨によれば亡高光には妻および二名の実子があつたことが認められるので遺族の慰藉料を名金五〇〇、〇〇〇円)、合計金一〇、九〇六、三〇一円となるところ、前記の過失割合により過失相殺をすれば、金四、三六二、五二〇円(円未満切捨)となり、原告において、被害者らが被告より香典として金五、〇〇〇円、国民健康保険金金二、〇〇〇円の支払いを受けていることを認めているので、これを差し引けば、金四、三五五、五二〇円となる。従つて、事故時に施行されていた自賠法施行令に定める損害填補限度額金一、五〇〇、〇〇〇円の範囲吋で金一、四九四、五〇〇円を支払つた原告の損害填補は適法かつ相当である。

第四しかして、原告は自賠法第七二条第一項により、前記支払額金一、四九四、五〇〇円の限度で、亡高光の遺族が加害者の運行供用者である被告に対し有する損害賠償請求権を代位により取得したものと認められるので、従つて、原告は被告に対し金一、四九四、五〇〇円およびこれに対する支払つた日の翌日である昭和四三年九月一九日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めうること明らかであるから、原告の本訴請求は正当である。

よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉崎直弥)

【参考】 第二審判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

当裁判所も、被控訴人の本訴請求は全部正当として認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

一 <省略>

二 同六枚目裏七行目の「措信しがたい。」の次に、当審検証の結果は右認定を左右するに足りない。」と加える

それゆえ原判決は相当にして、本件控訴は理由がない。よつてこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 朝田孝 神田鉱三 横田弘)

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